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Vol. 53

Field Work Report

京都大学フィールド科学教育研究センター 瀬戸臨海実験所
いのち豊かな地で謳歌する、生命の神秘と生物の多様性

南紀白浜臨海地区、その一帯はいわば京都大学の広々とした、実験・研究区域である。

1)

番所崎周辺の海は一帯を岩礁で覆われ、太平洋に面する西の浜でさえも高波が立つことは少なく穏やかだ。無数にできた潮溜まりのひとつを覗くと、小さな生き物が多種動き回り、この地の生命の豊かさの一端を見ることができる。実際、黒潮の影響を受けたここ白浜周辺で見られる生き物は多様で、それらは「白浜水族館」で観察することができる。「白浜水族館」は実験所の研究に必要な生物を飼育する施設でもあり、展示生物が他の水族館とは一風変わっている。そのひとつ、「ベニクラゲのポリプ」が展示されているのは世界でもここしかないであろう。


細い糸の節に見える丸い塊がポリプの個虫。この1点が“若返り”の起点。

2)

周辺環境で特記すべきは、瀬戸臨海実験所が管理し、地元漁協と協定を結んで海洋生物の保護を行っている畠島。北西側を湾口に、南東側を内湾に面しているため、外洋性・内湾性を合わせた多様な生物が生息する国有地で、島を一周するだけで田辺湾周辺の海岸生物相を一通り観察できる。研究・教育目的以外の上陸を禁止し、京都大学を中心に継続調査が行われている。


畠島には船で渡る。


畠島から属島の小丸島を望む。ここの泥砂地には私たちの祖先とも言われるワダツミギボシムシも生息。体長1 mにもなるそうだが、今回は残念ながら出会えなかった。


久保田 信氏がニホンベニクラゲのポリプを野生で見つけたのはここ畠島。

3)

久保田先生は、ベニクラゲの研究に加え、周辺環境の定点観測にも力を入れる。
「定点観測で見えてくることがある。まずは範囲を決めて毎日観測し続けること」
港で軟体動物やサンゴ類の観察、北浜でシロヘリハンミョウの観察、施設敷地内でクマゼミの抜け殻の観察、そして、多種多様な漂着物の観察など、毎日の観察を欠かさない。


取材中に、南浜にグンバイヒルガオが芽を出しているとの情報が入る。「熱帯域に生息する植物が、こんな北で発芽するなんて、温暖化の影響かな。でも冬は越せないね」と久保田氏。

手製の採取キットでニホンベニクラゲを探す。

4)

ここは「フィールド科学教育研究センター」。その名の通り、臨海実験所を持たない他学に施設を開放し、人材の育成、高等教育の充実に貢献することも目的としている。ちょうど取材終了の次の日からが夏休み。一般向け、小中高学校生、大学生、社会人向けの実習やセミナーが休みなしに続く。翌日の Facebook では、子供たちと一緒に浜の観察をする先生の無邪気な姿が届いた。

絶えない好奇心と研究者としての緻密さ、そしてなによりも、生物への深い愛情を持って生命の神秘に挑む久保田先生。子供の頃に初めて科学に接したときのワクワク感をそのままに、臨海地区を縦横無尽にフィールドワークする先生から、また、新しい便りが来るのを楽しみに待ちたいと思う。

撮影日 2016.7.13-15(編集部 大塚智恵)

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